「とゅもろ」リリース1周年

 有希乃さんが活動休止をされて3ヶ月がたとうとしています。ちょうど1年前にアルバム「とゅもろ」が発売されたのですが、一周年を有希乃さんご本人やファンのみなさんとお祝いをできないのは、やはり少しだけ残念です。

 私が好きになったミュージシャンには活動休止、解散、引退はもちろんのこと。さまざまな形で活動を耳にしなくなった方々がたくさんいます。その後もブランクを挟みながら結果的に息長くコンスタントに活動された方もいれば、復活されたり、メンバーチェンジをされたり。そのまま自分も忘れ去ってしまった方もいらっしゃいます。
 ちあきなおみさんはご存じの方も多いと思いますが、ちあきさんは夫、郷鍈治さんの逝去をきっかけにパッタリと世の中に出てくることがなくなりました。もうかれこれ、30年近くにもなってしまいます。ちあきなおみファンには有名な話ですが、ちあきさんと郷さんは本当にお互いを大切にしていらっしゃって、郷さんはちあきさんの音楽活動を支えるために俳優業を引退されました。だから郷さんの棺にすがりついて「私も一緒に焼いて」と叫んだという話が象徴するように、彼女がもう歌えないという気持ちも理解できるのです。最愛の人を亡くして、なぜ歌うことができるのでしょう? それも仕方がないよね・・・という気持ちを抱えて、もう30年。私よりコアなちあきなおみファンの方はどんな気持ちなんだろうと思う事があります。

 私は彼女の表現が大好きでした。みんなのうたの「さとうきび畑」、『象物語』の主題歌「風の大地の子守り唄」、そして「矢切の渡し」。だから彼女が活動を辞めてしまったことがとても寂しかったです。しかし間違いなく私はちあきさんの歌をもっと好きになったのは彼女の活動休止後だと思います。自分の年齢とかももちろん関係していますが、多分私の中に彼女の音楽を好きになる「何か」があって、それが私の心の琴線をずっと揺らしているのだと思います。
 彼女はこだわりの人でした。前述した「風の大地の子守り唄」はシングル盤リリースをめぐって一悶着ありましたが、そういうことに自分を譲らない人でしたし、だからあんな表現ができる感性を持ってらっしゃったのではないでしょうか。アーティストってそういう特別な感覚があるのでしょう。
 私が交際していた女性の中に、絵を描くことが好きな女性がいました。その女性は音楽やアートをこよなく愛していて、自身も油絵を描いていました。彼女は時々突然涙を流して泣くことがありました。一緒に歩いていた時、突然涙を流しはじめたので、「どうしたの?」と尋ねると紅葉した街路樹の葉が風に舞っているのをみていたら、まるで絵の中にいるみたいで感激したというのです。その道はいつも歩く道だし、落葉なんて当たり前の秋の景色だけれど、確かに言われてみると太陽の光の具合といい、風の感じと舞う葉の様子といい、それらが絶妙なバランスで成立した一瞬だったと私も実感できました。でもきっと彼女が泣かなかったら自分はその美しさに気づかずに過ぎてしまった思うのです。私はそんな彼女の感性の鋭さに感激することがよくありましたし、同時に彼女の感性の鋭さに当惑することも多かったのです。

 有希乃さんが活動休止されている現在、有希乃さんの曲を聴いていると、この曲を作っている時の有希乃さんはどんなことを考えてらっしゃったのだろうということを考えることがありました。そのたびに「また有希乃さんの歌を聴きたいなあ」という気持ちと、「こういう曲を作ることができる人だから休業も必要かもなあ」という気持ちで、結構複雑な感傷に浸ることがあります。でもひとつ言えるのは、やっぱり有希乃さんの歌っていいなあ、という気持ちも強い、ということでした。

 「とゅもろ」リリース1周年、おめでとうございます! 待ってますよー、有希乃さん。

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